クロネコの塵壺

自分の頭で考えて生きていこう

「豊かな小国」の躍進モデル

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突然ですが質問です。

 

日本より国土が小さく、人口も少なく、資源も少ない国で日本よりも経済的に豊かになったアジアの国で、現在も経済的に高い成長率を維持している国はどこでしょうか?

 

答えは、シンガポールなんです。

 

人口560万人のこの国は、2017年の一人当たりのGDPが約58千ドルとアジアでトップの地位を維持しています。ちなみに日本は約38千ドルです。

 

先日、読売新聞を読んでいたら大阪大学名誉教授の猪木氏がシンガポールについて興味深い記事を執筆されていたので、今回はそのことについて書きます。

 

日本は、2020年の東京オリンピックを前に国として盛り上がりを見せています。

 

だけど、「その後のことをもっと真剣に考えた方がいいんじゃないの?」というのが、猪木氏の問題意識で私も同じ意見です。

 

2020年以降、どういう国家像をめざすのか。

 

そのヒントがシンガポールにあるかもしれない。それが仮説にあたる部分です。

 

さて、最近シンガポールが注目されたのは、トランプ大統領金正恩労働党委員長による米朝首脳会談ではないでしょうか。

 

日本の国際的な存在感が低下している中で、シンガポールは国際社会の中でそのプレゼンスを着実に高めていると言っても過言ではないでしょう。201511月の中台首脳会談でもシンガポールは、仲介国として会場を貸しています。

 

猪木氏が指摘しているシンガポールの素晴らしい点は以下のとおりです。

  • 平均して年6%ほどの経済成長を維持

  • ロンドン、ニューヨーク、香港に次ぐ金融センターに成長

  • 低い法人税率等のため海外からの企業進出が多い

  • 公用語が英語

  • 大学も英語と経済力をテコに優秀な研究者を多数招く

一方、懸念されている点は以下のとおりです。

  • 一党優位の政治体制(独裁に近い)

  • 表現の自由の制限(厳しい報道規制
  • 所得再分配の不平等度は高所得国の中で高い

  • 米調査会社の国民幸福度調査(2012年度)で148か国中最下位

シンガポールについては、高い経済成長率ばかりに目がいってしまい、その影の部分はなかなか知る機会がないと思います。シンガポールが「明るい北朝鮮」と呼ばれることも今回初めて知りました。

 

記事の中で猪木氏は、シンガポール・モデルに関して2つの論点を取り上げています。

 

一つ目は、「国家と国籍保有者」の関係です。

 

シンガポール統計局によると、人口560万余のうち、シンガポール国籍は6割程度にとどまり、残りは外国籍である。

 

 

出典:読売新聞朝刊 2018年7月29日

 

これの意味する所は、シンガポールの経済成長は近隣諸国の外国人労働者に支えられている、ということです。一部の労働者は、低賃金で劣悪な環境で働かされており、5年前には外国人労働者による暴動が起きたこともありました。

 

全人口のうち4割が外国籍というのは、シンガポール・モデルのリスクというか、アキレス腱ですね。国籍を持っていない外国人労働者には、年金などの社会保障費を負担する必要がありませんので、メリットもあると思いますが。。。

 

二つ目は、「自由と経済的繁栄をどう位置付け、繁栄させるか」という問題です。

シンガポールの場合、経済成長が所得格差を広げる一方、経済的豊かさも開発独裁型の政治によって報道や表現の自由を犠牲にしながら達成されたものだ。

(中略)

そして中国やシンガポールの教育体制を見る限り、その徹底した実利主義と学歴重視の能力主義は、長期的には国民の潜在的な力を引き出すことにはならないと考えられる。

 

 

出典:読売新聞朝刊 2018年7月29日

 

国家として経済的繁栄を重視するならば、実利主義、功利主義能力主義などは必要なのかもしれません。ただ、それが行きすぎると不味い状況になる、という事だと思います。

 

猪木氏が出席した国際学会で、ある社会主義国家の学者が「人文系や社会学系の学問研究への予算が乏しく、実利に直結しない知的活動が尊重されないこと」を愚痴っていたそうです。

 

日本も安倍一強政治で少し強引な政権運営が続いています。加えて、大学教育の人文系軽視の動き(文部科学省が国立大学に文系学部の縮小を要求)も出てきています。これは不味い状況ではないでしょうか。

 

最後に猪木氏は、「技術だけでは十分ではない。リベラル・アーツと結びつかなければならない」というスティーブ・ジョブズの言葉を引用しています。米国も実利・能力主義一辺倒と見られがちですが、実は人文系のリベラル・アーツをとても尊重する国ということを忘れてはならないと思います。